人工知能が特許を出願した日!

人工知能が特許を出願した日!(第3回)

投稿日:2017年7月21日 更新日:

2045年、シンギュラリティは本当に起きるのか?

「シンギュラリティ」とは、「技術的特異点」と訳されている。

「シンギュラリティ」という言葉は、発明家であり、企業家で、グーグルの人工知能研究責任者をしていたレイ・カーツワイルが広めた概念で、「テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほど変容してしまうような、来るべき未来のこと」と彼の著書(注1)で定義されている。


シンギュラリティは近い

換言すると、いったん、人工知能が生まれると、その人工知能が新たな人工知能を誕生させ、その人工知能がさらに高度で高性能な人工知能を作る。それを数限りなく繰り返すことによって、あっという間に人間の千倍、百万倍、一兆倍も優れた人工知能に変身する、そのときのことを「シンギュラリティ」と呼んでいる。

あっという間って、どのくらいの時間なのだろうか。

数日という人もいるし、数時間とか数分とかいう研究者もいて、そのときになってみないとわからないそうだが、どちらにしても人間が賢くなるより遥かに短時間でスーパー知能を有する人工知能が誕生することになる。

とても恐ろしく、恐怖を感じるのだが、このように人工知能が人間の脅威になると懸念している人たちに対して、米IBM基礎研究所で「コグニティブ(認知型)システム」の開発を牽引しているダリオ・ギル副社長は、「コグニティブシステム」の代表選手がクイズ番組「ジェパディ!(Jeopardy!)」に優勝した「ワトソン」であり、「ワトソン」は人がより良い作業が行えるようにサポートするものだ、と講演し、人の脅威にはならないと断言している。

それならば、人工知能がパソコンのように人の仕事を補助するだけなら、なんの心配も問題もないことになる。

しかし、IBMが主張する「コグニティブシステム」が完成したら、その次にあるのはやはり完全無欠の意思を持った「人工知能システム」になるのではないだろうか。もし、その研究を怠れば、IBMといえどもやがて競合他社によって駆逐されることになることは必定だ。

かつては世界最大の携帯電話端末メーカーだったフィンランド・ノキア社のリスト・シラスマ会長は、シンギュラリティという言葉こそ使わなかったが、「(これから始まろうとしている変革は、)いまだに想像もつかないほどの革命的な変化だ」、と警戒する発言をしている。

本当にそのようなことが起きたなら、人間はどうなるのだろうか。真に、シンギュラリティは起きるのだろうか?

シンギュラリティが起きるという研究者と起きないとする研究者がいるが、最近は起きると考える研究者の方が多くなっているように感じる。

東京大学大学院工学系研究科の松尾豊特任准教授は、「ドラえもんのような、人間と人工知能がまったく齟齬(そご)なくコミュニケーションできるような世界を作るのは、実際にはかなり難しい」と言い、続けて「人間とそっくりな概念を持つこと」の必要性は高くない。「それよりも、予測能力が単純に高い人工知能が出現するインパクトのほうが大きいだろう」、と述べている(注2)。

すなわち、松尾准教授は、人工知能は人間の認識の仕方とは違う別物だ、との見解を示している。

続いて、松尾准教授は、「人工知能が人類を征服したり、人工知能を新たに生み出したりという可能性は現時点ではない。夢物語である」、と断言している。「ディープラーニングで起こりつつあることは、世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習することであり、このことと、人工知能が自らの意思を持ったり、人工知能を設計しなおしたりすることとは天と地ほどの距離が開いている」。

そして、松尾准教授はその理由として、「『人類=知能+生命』であり、知能をつくることができても生命をつくることは非常に難しい」、からだと言い切っている。

人工知能は生命体ではないので、意思を持たない機械であるという主張で、所詮、機械は機械だということだ。

脳の主な機能は、現在有する知識、情報から未来を予測することにある。

「アルファ碁」は、13階層からなるニューラルネットワークを使って、KGS(囲碁の対局・観戦・検討を無料で行うことができるインターネットのサイト)の六段から九段の棋譜16万局を学習し、それに適当に一手だけ変更し、勝率80%になるまで学習させたそうだ。その数なんと3000万局。ここまでの学習期間はどのくらいだっただろうか。

なにも知らない無知なところから3000万局指すのだから、1日1000局指したとして、3万日。82年以上かかることになるのだが。

ところが、それがたったの1週間だったそうだ。1日に約428万局。1時間に約17万8000局。1分間に約2972局。わずか1秒ほどの間に50局指したことになる。囲碁の平均指し手数は、1局当たり220手といわれている。そうすると、一手差すのにたったの90ピコ秒だ。ちなみに、ピコ秒は100万分の1秒のことだ。

これじゃあ、人間がかなうわけがない。それで世界一のプロ棋士と対戦して勝ったという訳だ。

この「アルファ碁」は、プロ棋士の棋譜データを教師として、プロ棋士の次の一手を予測するシステムだった。

では、この「アルファ碁」は、脳の機能に匹敵する人工知能ということなのだろうか。

すごい棋力とも能力ともいえるのだが、ありがたいことにアルファ碁は囲碁しかできない。食事を考えることも作ることも、人と楽しい会話をすることもできない。しかし、この技術を用いれば囲碁や将棋のようなルールの決まった完全公開型の問題は、人工知能が人間を上回ることが証明された。そして、この技術をさらに発展させるとか、このような人工知能ソフトを並列につないでいけば、いずれは「シンギュラリティ」が起きる。

電気通信大学情報工学科伊藤毅志助教と村松正和教授は、「シンギュラリティは29年後に来ると言っているが、10年ほど後に来るのではないか」(注3)、と期待とも恐れともつかない意見を述べている。

新潟大学大学院の須川賢洋助教は、シンギュラリティとは「超知能ができるとき」であり、超知能は「機械超知能」と「知能増強(人工知能)人間」に分けられると言っている。(注4)

「機械超知能」というのは、映画『ターミネーター』や『マトリックス』に出てくるロボットもしくはアンドロイドのことで、「知能増強人間」は人の頭脳が非常によくなったマンガの『攻殻機動隊』のようなもので、生命体としての原初の人間的な感情が残っているものだそうだ。

これらはSFやアニメの世界だと安心してはいられない。アニメ作家や未来小説家が想像した世界が現実化しつつある。

次に、企業家たちはどのように考えているのだろうか。

新聞やインターネットなどで眼にするところでは、山川宏氏が率いるドワンゴ人工知能研究所やNTT、ソニー、パナソニックなどが人工知能の開発に参戦すると報道されている。しかしその勢いは、米国の力強さ、中国のパワーと比べるとやはり見劣りがするというのが正直なところだ。

「日経テクノロジー」の野澤哲生氏は、「日経テクノロジーオンライン」の記事を以下のように締めくくっている。(注5)
「結局、ある時点で「これは人間にはできるが、人工知能にはできない」という状況があっても、誰かがその課題を指摘した途端に、つまり、解決したいという需要が出てきた途端に、技術的な解決策が考えられて、その技術的限界がなくなっていく傾向にある。

この傾向は当分、続くだろう。人間の脳の再現が、人工知能の技術者が目指す大きな方向性だからだ。ただし、単なる人間の脳の複製ではなく、従来のコンピューターの強みである高速演算機能や高い拡張性、そして高いネットワーク機能を保ったままの再現である。

人間の脳という実際に動いているお手本がある以上、その動作の再現が原理的に不可能という議論はなかなか難しい。つまり、『棲み分け論』は永遠の負け戦を迫られる。疑問は、脳の再現ができるかどうかではなく、いつできるか。例えば10年先か、30年先か50年先か、それが問題なのである。」

これまで、どちらかといえばシンギュラリティに否定的だった東京大学大学院工学系研究科・松尾豊准教授は、「いま、人工知能はかなり面白い時を迎えている」、と嬉しそうに語っているそうだ。そして、「シンギュラリティを超えないと言うのは、もはや難しいだろう」と「東大新聞オンライン」でインタビュアーに答えている(注6)。

2014年、IBM社は、「ワトソンは近い将来、世界で最も優れた医者になるかもしれない」と発表した。

ワトソンは、医学に限らず、体系化されたきちんとしたデータベースが整備され用意されている特定の専門分野では、非常に強みを発揮するコンピュータだ。料理のレシピを創造する「シェフ・ワトソン」もできている。各種の専門分野で「何々ワトソン」が次々と生まれつつある。


Cognitive Cooking With Chef Watson(シェフ・ワトソンとのコグニフィティブクッキング)

IBM社は各種の「専門家」ができ、複数の「専門家」同士が連携して、より幅広い分野を踏まえた「判断」が得られるようにしたいと考えている。コンピュータの計算能力が1万倍、100万倍と速くなり、「専門の壁」が崩れ始めれば、知識やそれを基にした判断力で人工知能に対抗できる人間は大幅に少なくなり、やがて誰一人として並列に連携したワトソン(人工知能)にかなう人間はいなくなるだろう。

理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士は、人工知能に対す警告書の中で、「AIで人間を超えようとする研究が成功する確率の見積もりは研究者によって大幅に異なる。しかし、その確率が無視できるほど低いと根拠をもっていえる意見はほとんどない」(注7)と、語っている。

さて、人工知能がこのように優秀なら、全部ロボットに任せてしまえばいいのではないか。なにもあえて人間が働く必要はない。そうなれば楽だし……。いや、待てよ。そもそも人間は、なぜ働いてきたのだろうか……。

人工知能を手に入れた人間は神になるという。神と等しくなったヒトは、働かなくてもいいのだろうか。それでもヒトは、何らかの理由を付けて働き続けるのだろうか? もし働くのなら、それはいったい誰のために、何のために働くというのだろうか……?

[コラム 3]

グーグルが、囲碁ソフト『アルファ碁』を開発したディープマインド社を買収するきっかけは、ディープマインド社の共同創設者シェーン・レッグ氏の一つの論文だった。

ごく初歩的なテレビゲームを、うまくできれば「褒め」、逆に失敗したら「ダメじゃないか」と叱る。たったそれだけのことで人工知能自身がどこがよくてどこが悪かったのかを「強化学習」する。その結果、人間の名人にも勝てるようになった、という論文がグーグルの最高経営責任者ラリー・ペイジ氏の目にとまり、最終的にディープマインド社を買収することになったそうだ。このとき、ラリー・ペイジ氏は、「ある種の人間性の萌芽を思わせる人工知能の登場であった」、と感想を漏らしている。

シェーン・レッグ氏がゲームソフトに問いかけたことは、まさに子供を育て教育するときの、「子褒め」と「叱りと躾」に似ている。

「ディープラーニング(深層学習)」と「ディープニューラルネットワーク」は、人間性の萌芽を示した最新の技術であった。

ディープマインド社の共同創業者の一人、デミス・ハサビス氏は人間の脳の海馬を研究し、海馬が記憶とそれに基づく未来を予想する橋渡しの役目をしていると発表した。この研究成果は、世界的な学術雑誌「サイエンス」における2007年の「10大ブレークスルー」の1つに選ばれた。

デミス・ハサビス氏はこの海馬の研究成果を生かして、「過去の経験から何かを学び、それを未来の行動に生かすニューラルネット」を開発した。このように人間の脳を手本とした人工知能だから、「褒められる」と無限に上達するのである。

しかし、それが逆の教育をしたとしたら、おぞましい結果を招くことにもなりかねない。だからだろうか、ディープマインド社はこのことに深い危惧の念をいだいており、開発者自らがその恐怖に慄(おのの)いているのである。

[コラム 4]

1972年に電卓(電子式卓上計算機)の「カシオミニ」が販売されると、翌年の1973年にはシャープから液晶表示の電卓「エルシーメイトが」発売されて、世間の話題をさらった。このときから「液晶のシャープ」と呼ばれ、高価だった電卓価格は見る見る下落し、それに伴ってどこにでもあった町のそろばん教室が廃れていくことになる。

1976年には、太陽電池を搭載した電卓がシャープから発売される。液晶表示による消費電力の低減と、それを賄う太陽電池。この二つの成功がもたらしたシャープの繁栄と、その後に起きる苦悩の未来は劇的な結末を迎える。液晶で一世を風靡したシャープだったが、鴻海(ホンハイ)精密工業に吸収されたのが2016年だ。わずか43年の栄光と繁栄だった。まさしく第四次産業革命が始まる年だったのは、何かの因縁なのだろうか。

また、1985年にワープロソフトの『一太郎』が世に現れると、習字や硬筆塾が激減した。わたしなどは計算が苦手で、悪筆だったのでこの二つの道具は大いに助けとなったが、多くのそろばん教室やお習字の先生方はその後どうされたのだろうか。ご家族にとってはさらに大変なことだったのではないかと、今になっては想像するだけだ。

さらに過去を振り返れば、「代書屋」という商売があった。上方落語にも「代書屋」という同名のネタ噺(ばなし)があるほど、どこの街角にもあった。

「代書屋」は、昭和26年に行政書士法が成立すると国家試験制度になり、「行政書士」と名を変えて現在も存続している。このようにしぶとく生き残ってきた行政書士の仕事も、パソコンソフトの機能の向上、そして人工知能の発達とともに姿を消して行く職業のひとつと言われている(注8)。

参考文献

(注1)シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき レイ・カーツワイル著、井上監訳、小野木ほか訳 NHK出版 2016年
(注2)人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの 松尾豊著 角川EPB選書 2015年
(注3)ディープラーニングを用いたコンピュータ囲碁 伊藤毅志、村松正和 日経テクノジーオンライン 2016年4月22日
(注4)シンギュラリティが社会に与える影響 須川賢洋 日経テクノロジーオンライン 2016年3月22日
(注5)人工知能との戦い、人間に“安全な逃げ場”はない 野澤哲生 日経テクノロジーオンライン 2016年1月25日
(注6)人工知能50年来の革命、ディープラーニングとは? 松尾豊 東大新聞オンライン 2014年10月4日
(注7)“人工知能3原則”が登場へ 野澤哲生 日経テクノロジーオンライン 2015年6月29日 
(注8)オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」 マイケル・A・オズボーン 週刊現代 2014年11月8日

工学博士 黒川 正弘

黒川正弘先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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