季語でつなぐ日々

第11号/寒露、夜食、黄落

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寒露

投網打つ男翳濃き寒露かな  竹村 完二

 寒露は露が寒さで凝結して氷るようになるという意味の二十四節気ですが、実際に霜が降りるのはもう少し先です。

 空気が少しひんやりと感じ始めて、空も水も透明度が増してきます。晴れていても暑くはなく、過ごしやすい時期と言えるでしょう。今年は10月8日が寒露です。

 この句は川岸の光景でしょうか。舟の上かもしれません。投網を打っている男がいるのです。川だったら、鮎、鮒、鯎(うぐい)などが掛かるのでしょう。

 作者はその男の「翳」が濃いことを見て取っています。男の姿が陽光を受けて反対側にできる「かげ」なら「影」と書き、男の姿の暗くなっている部分なら「陰」と書きます。でもこの句は「翳」です。この字は「翳りのある表情」などと使われるので、日焼した皺に人生が感じられたのかもしれません。

 寒露という季語が添えられたことで、毅然として生きてきた男の「渋みのある表情」が想像できます。

夜食

共犯のごと夜食して父娘  黒澤 麻生子 

 「夜食」が秋の季語になっているのは、秋の夜長と関係がありそうです。日暮れが早くなって、夕食時間も少し早くなり、夕食後の時間をゆったりと過ごせます。「夜なべ」「夜業」も秋の季語。夜食が必要な季節ですね。

 この句はお父さんと娘が夜食を食べている光景です。キッチンでカップ麺を食べようとしたらお父さんが来たので二人で食べたという程度かもしれません。でももう少しちゃんとしたものを食べたのではないでしょうか。「うどんでも茹でようか」「そうね、葱を刻むわ」などという会話が聞こえてきそうです。

 普段ならお母さんが取り仕切っているキッチンという領域を二人で侵すような気持ちになった。楽しいのです。楽しい分だけ、少し後ろめたさも感じた。それが「共犯」という言葉に出ています。

 朝になって夜中の闖入者に気づいたとしても、お母さんは、喜んで許してくれるでしょう。

黄落

ポタージュの厚みを唇に黄落期  桂 信子 

 晩秋になって、銀杏(いちょう)、欅(けやき)、櫟(くぬぎ)、楢(なら)など、黄色くなった葉が落ちるのを「黄落(こうらく)」と呼び、その時期を「黄落期」と言っています。

 この句のポタージュは何でしょうか。コーンポタージュ、南瓜のポタージュ、ほうれん草のポタージュなどが思い浮かびますね。コンソメは澄んだスープですが、ポタージュは小麦粉などでとろみがついています。掬った時に厚みが見えた。そしてそれを唇に近づけたというのです。「厚みを」でポタージュのぼってりとした重量感が伝わってきます。

 黄金に輝く銀杏が天から惜しみなく降って大地を輝かしている。そんな街路樹が見えるレストランでスープを飲んでいるのでしょう。

 大地が落葉で暖められるように、温かなスープが人の心と身体を温めてくれるのです。秋の深まりを味わうには黄落とポタージュが一番だと思わせてくれる句です。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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