季語でつなぐ日々

第4号/夏至、五月雨、蛍

投稿日:2017年6月20日 更新日:

夏至

シェイクスピア観て夏至の夜を言祝ぎぬ  藤田るりこ

 昼間の長さが最も長くなる夏至も二十四節気の一つです。今年は6月21日に当たります。

 日本では梅雨の真っ只中なので、曇ったり雨が降っていることが多く、日の長さを楽しむことをあまりしません。けれどもヨーロッパではさまざまな夏至祭が行なわれるようです。

 この句の作者が観たシェイクスピア劇は、おそらく「真夏の夜の夢」でしょう。夏至の夜に、アテネの貴族たちが森に入って行き、森の妖精によっていろいろな恋が生まれるというラブ・コメディーです。

 「言祝(ことほ)ぐ」は「寿ぐ」とも書きますが、言葉で祝福するという意味です。古代の日本では言葉の霊力が幸福をもたらすと信じられていました。

 したがって、この句は西洋の芸術を、古来からの日本語で讃えたことになります。でも違和感がありません。

 シェイクスピアは言葉の魔術師と言われるぐらい言葉を駆使した劇作家なので、「言祝ぎぬ」がシェイクスピアの世界を象徴するような結果になったのです。


北欧の「夏至祭」

五月雨

さみだれのあまだればかり浮御堂   阿波野青畝

 「さみだれ」は陰暦5月の頃に降る雨なので「五月雨」と書きますが、現代の暦では6月の梅雨の雨のことです。

 芭蕉の「五月雨を集めて早し最上川」、蕪村の「さみだれや大河を前に家二軒」が有名ですね。

 ここに揚げた阿波野青畝(あわのせいほ)の句もよく知られています。「浮御堂」は琵琶湖の細くくびれた辺り、琵琶湖大橋の南にある満月寺の御堂です。

 その小さな堂は琵琶湖の水の中に建てられています。小橋を渡って、堂に着き、回廊を廻ってゆくと、堂内の千体仏を拝むことができます。そして振り返ると、眼前に湖が大きく広がって見え、まるで船の船首に立っているような気持ちになります。

 この句の作者は浮御堂の軒下にいるのでしょう。さみだれでかすんだ湖と空を見ながら、浮御堂の軒から落ちる雨音だけを聴いている。すると自分が大自然と一体になってゆくような気がしたのではないでしょうか。

 「さ」「だ」「あ」「ま」と、アの音が心地よく響くリズムも、この句の魅力です。


浮御堂
※雑記系ブログのさらなる高みを目指すブログあれこれやそれこれの管理人サキさんの了解を得て、浮御堂の写真を掲載させていただきました。

くるぶしに草のつめたき初蛍   小原啄葉

 蛍が舞う季節になってきました。

 関東では六月から七月の、ちょっと蒸し暑い夜に川辺に行くと、草叢や藪のなかから小さな蛍がふわっと飛び出る光景を見ることができます。

 詩歌の世界では昔から、蛍に恋を託してきました。

 和泉式部の「もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」は代表的な和歌です。俳句では「ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜」という桂信子の句が逢瀬を詠んでいて有名です。

 今日揚げた「くるぶし」の句は恋愛を詠っていませんが、蛍狩の実感をよく捉えています。草を踏んで川岸に近づいてゆくと、丈のある草が素足のくるぶしに触れてひんやりとしたのでしょう。

 真っ暗な闇の中に小さな光の明滅を見つけたときの感動が初々しい感性で捉えられています。

藤田直子先生のプロフィールや著作については、こちらをご覧ください。

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